レコーディングのイロハ

楽曲の方向性と予算と納期

制作に入る前に楽曲の方向性と予算と納期を必ず確認します。

【楽曲の方向性】
制作とアーティストでどんな楽曲にするかの方向性を話し合い確認、合意します。既にタイアップが決まっていればクライアントの意向も取り入れます。アーティストの意向も汲んで方向性を定めますが、リクープラインや予算を考慮して、場合によってはマネージメントと話し合う必要性が出てくることもあります。

【予算例】
■Single(総予算200万、2曲4ヴァージョン)100万×2曲
■Album(総予算600万/12曲、内Single2曲)
実質Single以外の10曲を600万の中で賄います。

予算をきちんと把握し、曲の方向性に応じたスタジオ、アレンジャー、ミュージシャン、エンジニアを選び、事前に料金やギャランティーなどの交渉しておきます。プログラム(曲やアレンジャーやプロデューサー)により別途機材などをレンタルしたりする必要もあり、それらもあらかじめ話し合い把握しておくことが得策です。

【納期】
より良い販売活動を行う為に、受注開始時には音が揃っていることが望ましいのが納期です。タイアップ等の関連でMIX済み音源を提出しなければならない場合もあり、その時は納品日よりも早くなるケースもありますので確認の必要があります。

さて、それでは具体的に曲決めからレコーディング(実作業)の段取りについて話しを進めていきたいと思います。予算にもよりますが、ここでは1曲(生レコーディング)に要する述べ日数を4日としてお話してみます。(スタジオでの実作業、MIX完パケまで)
予算によっては1曲1日で!2日で!とういう場合もあります。

仮にレコーディングに入るまで4週間と仮定します。
※昨今ではかなり余裕をもった進行です

楽曲の発注

アーティストとの話し合いにより決まった方向性(テーマ)を理解し、それに沿う形で作詞家、作曲家に発注を行います。作詞家、作曲家は楽曲の方向性を理解したうえで創作に入りますので、より明確に意向を伝えます。この時点でブレると楽曲が決まらないどころか、出来上がった曲が無駄になります。また、アーティストのKey(音域)も伝えておきましょう。
アーティスト本人(Bandも含む)が自ら楽曲を作る場合にも、楽曲のコンセプト等を明確に説明します。期限(約2週間)を設け選曲会を開き、集まった楽曲を聴いて決定します。

■気を利かそう!
この時点で必要であれば制作担当、宣伝担当、営業担当に楽曲を渡しておくと、一足早いプロモーションに活用してもらえたりもします。
プロダクションがスタートして、この時点までで2週間程要する事も覚えておいた方がいいかもしれませんね。

Key Check(キー・チェック)
アーティストのキーを確認する為に、Key Checkをします。この作業はアーティストの声域を確認する為だけでなく、楽曲の印象を大きく左右する可能性のある極めて大事な作業です。決定した歌詞があれば最も良いですが、なければ簡易的に仮歌詞をハメて歌っても、ラララ・・・で歌ってもよいです。歌詞がある方が、言葉によって低域や高域が出にくい場合があるので、それも確認できます。

アレンジの発注/Pre-Pro/レコーディング・リハーサル
※Pre-Pro(Pre-Production)=本番レコーディングを想定しての仮レコーディング
※レコーディング・リハーサル=Bandの場合に多いが、アレンジ作業を含めたレコーディングの為の練習。主に町のリハーサルスタジオでの作業が多い
さあ、楽曲も決まりKeyも決まりました。レコーディングに入るまでに、残すところ2週間です。コンセプトに合ったアレンジの方向性を決め、そのアレンジに合ったアレンジャー、サウンドプロデューサーに依頼します。決め打ちで依頼する場合もありますし、コンペティションの場合もあります。コンペティションの場合は事前にコンペティションである話しをしてコンペティション料金も伝えておくといいでしょう。

■気を利かそう!
アレンジを依頼する際にKey Checkの時に録音した仮Vocal Trackがあれば渡しておくと声のイメージが反映されて、アレンジャーも作業がしやすいので効果的です。歌詞があればより良いです。

・期限(約1週間)を設け視聴会等を開きアレンジを決定します。
・アーティストがバンドである場合、採用されたアレンジをもとに、Pre-Proをします。ここでより明確な音のイメージを作りあげます。
・Pre-Proで方向性が決まったら、スタジオをチョイスします。予算、楽器の構成、レコーディングエンジニアの意向を確認して決めます。また現場によってはギターテクニシャン、ドラムテクニシャンといった方々の参加も依頼します。このテクニシャンの方々は俗に“テック”と呼ばれ、竿もの(ギターやベース)のチョイスから音色制作を実際のレコーディングの現場でアレンジャーの意向を汲んで、瞬時に反映させるといったお仕事です。ドラムテクニシャンも同様で、ドラムセットのチョイス、音色、音程、音量などのチューニングを現場で行います。この方々の起用の仕方で、実際のレコーディングが短時間で済んだり、Mixの作業が格段に楽になったりするのです。

■気を利かそう!
この時点でも制作担当、宣伝担当、営業担当に楽曲を渡しておくといいですね。というか渡しておくべきなのです。この行程までで、約3〜4週間要します。

いよいよ楽曲の全体像が見えてきました!

演奏者の手配

アレンジャー、プロデューサーの意向で演奏者の手配を行います。(演者の方のギャランティはそれぞれで、1曲単位の方もいれば、時間単位の方もいます。)演者のブッキングはディレクターが直接依頼をしたりしますが、連絡先が分からない場合はコーディネート会社(インペグ)に依頼したりします。

インペグは演奏者だけでなく、スタジオのスケジュールの予約も行ったりします。(インペグは演者、スタジオをコーディネートしたら、そのFeeに15%~20%の手数料を乗せて、制作会社、レコードメーカーに請求をして利益を得ます)

さて、準備が整いました!

レコーディング(スタジオでの実作業)です!!!

レコーディング作業の流れ

ここではドラム(Dr)、ベース(Bs)、ギター(Gt)、ピアノ(Apf)、パーカッション(Per)の5rhythm(ファイブリズム)の録音をする前提で話を進めたいと思います。(レコーディング時には場合によってガイドボーカルが入ります。所謂仮歌です。歌詞作成の途中でもよいので、ガイドボーカルがいた方が楽器が弾きやすいなどという理由から入ることが好ましいとされます)楽器は基本的にリズム系(Dr , Bass , Per, Gt , Apf)とウワモノ(Syn, タンバリン等)に分かれます。レコーディングの進行に於いては、この分け方、順番が全てに関係してきますので覚えておきましょう。

因みに・・・・
3Rhythm(スリーリズム)・・・ドラム、ベース、ギター
4Rhythm(フォーリズム)・・・ドラム、ベース、ギター、ピアノ

音決め

エンジニアは楽器のセッティング位置を決め、マイクアレンジを施し、楽器ごとに音決めを行います。各楽器にマイクが1本という訳ではありません。特にドラムはオンマイク(楽器の直接音を録る)やオフマイク(楽器から離して空間音を録る)などエンジニアにより様々です。アレンジの方向性などにより、全員の演奏前にある程度のイコライジングやコンプレッサーを設定します。これらの音決めは、音楽の核(アンサンブルの中心)となるリズム系(Drums、Bass)から始めギターやピアノその他のウワモノ系といった順番で行って行く事が多いです。

Basicレコーディング

音決めが終わったらレコーディングの開始です。まずはPre-Proの音を聞き、どんな具合で演奏をするのか確認をします。確認が終わったら、演者が各ブースに入って演奏をします。

演者の袂にはキューボックスと呼ばれるモニターが置かれ、クリック(その楽曲のテンポ、ドンカマとも言われる)と他の楽器が立ち上がって(聞こえるようになって)おり、自分で演奏しやすいバランスを決め、ヘッドホンでモニターをしながら演奏します。録音、確認を繰り返しながら数テイク録音し、一番いいテイクを決めて、差し替え作業を行います。この“一番いいもの”の観点は人それぞれで、演奏にミスがないもの、グルーヴが良かったものなどです。これをディレクターが判断します。

差し替え

全員で演奏した一番いいテイクを選び、楽器ごとに差し替えを行います。具体的には演奏間違え等をパンチイン、パンチアウトという作業で間違えた箇所を、演者が“例の”順番に差し替えていきます。すべてのパートが終わったらBasicの完成です。

オーバーダビング(DB)

オーバーダブ、ダビングとも言われるこの作業はBasicの録音作業が終わったら行われます。アレンジの内容によりますが、多くはギター、鍵盤、パーカッション、コーラスなどがこれに当たります。ギターはAG (アコースティックギター)やEG(エレキギター)などなど、鍵盤はBasicがピアノ(Apf)ならシンセ(Syn)やオルガン(Org)、パーカッションは振り物(タンバリン、シェイカー等)などがこれに当たります。勿論パート全ての演者が集まって“せーの”でやる方法もありますが、予算やスタジオのスペースを考えると、これが最近の生録音の手法です。楽器周りの録音が全て終了したら、これでオケの完成“オケ完”です。

Strings(ストリングス)・・・弦楽器
1stヴァイオリン、2ndヴァイオリン、ビオラ、チェロの構成をカルテットといいます。
Wカルとは、カルテットがもう1組入ることで、2組8名で演奏します。そして、「カルテットをW(ダブ)る」とは一組がもう一回録音するということです。
4422や4411という数字を並べることがよく耳にします。これは、1stが○人、2ndが○人、ビオラ○人、チェロ○人ということです。

注意:編成によってはスタジオのブースに入らない事もありますので、スタジオ側とよく確認しあっていただきたいと思います。

Brass(ブラス)・・・金管楽器
トランペット、トロンボーン、チューバ、ホルンなど金管楽器の事を指します。
(因みにサックスやフルートは、木管楽器の一種になります。これを含めてホーンセクションと呼びます)

Rough Mix

オケ完後にエンジニアは今日の成果としてラフMixの作業を行います。次の歌入れ作業の資料となります。

ヴォーカルダビング(Vo DB)

先日録音して完成したオケに歌入れを行います。アーティストがスタジオに入る前に、エンジニアは声の質に合ったマイク(Mic)、ヘッドアンプ(HA)、コンプレッサー(Comp)をチョイスし、アーティストが歌いやすく、且つ良いところが引き出せるように、オケのバランスを決める大事な作業を行います。これをモニターバランスと言います。そしてアーティストの入りを待ちます。(Micのチョイスが数種類に亘る場合、同じHAがある場合は同時に複数のMicを立てて歌ってもらいます)

歌入れは基本的にはディレクターが行います。企画、方向性に沿ってボーカルディレクションを行います。最近はディレクションをアレンジャーやプロデューサーが行うことも多くなりました。この場合でも企画、方向性を理解して頂いた上で依頼しましょう。ディレクションのやり方は人それぞれであります。色々な現場で色々なやり方学びましょう。
数テイク録り終わったら、ディレクターはセレクト作業を行います。場合によってはブロックごとでテイクを変えたり、一文字単位で変えたりといった細かい作業を行います。セレクトしたテイクをアシスタントエンジニアが繋ぎ、アーティストに確認を行います。
この作業を繰り返し、1本のメインの歌が出来上がります。

ヴォーカルエディット(Vo Edit)

メインの歌が録れたら、エディットの作業です。昨今はこれが当たり前のように行われるようになりました。全体的に直しをされる方もいらっしゃいますし、“味”とみなして気になる箇所だけ直しを行います。ただ直し過ぎは折角の声の質感や、倍音が消されたりしますので注意が必要です。基本は歌の直しを行わずして出来る方が望ましいので、しっかり練習をして頂いてから、レコーディングに望みましょう。

コーラスダビング(Cho DB)

メインの歌に対してコーラスを入れます。コーラスにはいくつかあり、コーラス用にミュージシャンを依頼して録音するパターン。ジハモ、ダブルといったアーティスト本人が行うパターンがあります。ジハモはアーティストが自分でメインのメロディーに対し、3度上や3度下を自分でハモることを言い(自分でハモるのでジハモと呼ばれる)、ダブルはメインの歌と同じメロディーを歌うことを言います。

さぁすべての録音が終了しました。ここでもRough Mixの作業を行います。Mixの作業に入る前に、気になる箇所等の最終チェックが出来るからです。予算や、時間に応じて録り直しの場合もあります。

ミックス(Mix) = トラックダウン(TD)

沢山の楽器を2本のステレオにまとめる作業(Mix Down)を行います。

昨今のMix Downの作業には大まかに二通りあります。

卓(SSL,NEVEなど)を使用する“Consol Mix”(アナログミックスとも言う)とPro Toolsを使用する“Pro Tools Mix”です。

①Consol Mix(アナログミックス)
SSL(Solid State Logic社“エスエスエル”)やNEVE(ニーヴ)といったコンソールとアナログ機器のアウトボード(Comp、EQ、Delay、Rev)を多用します。メリットを簡単に説明すると、アナログ機器を通すことで、音の温かみや質感を大事にしたMixが出来ます。デメリットはアナログミックスなので、瞬時にリコールが利きません。Mix Checkはその日、スタジオに出向かないといけません。

②Pro Tools Mix(プロツールスミックス)
Pro Toolsを使用したコンピュータMixです。メリットはデータセーブが利くため、中断してもセーブさえしていれば再現性があります。Mixを一旦家に持ち帰り、気になるところを再度直すことが出来ます。但し、直しの作業が発生した場合に気をつけなければいけないことがあります。Pro ToolsにはPlug-inとよばれる専用のエフェクターがあります。ハードウェアの機器をPro Tools用に開発されたものです。これを利用するにはilok(アイロック)と呼ばれるドングルをMacに挿して動作をさせます。所謂これが正規ユーザーとしてPlug-inを購入し、ドングルに動作を許可するKeyが入っています。エンジニアによって使われるPlug-inはそれぞれですが、基本直しの作業をする場合は、同じスタジオを予約することをお勧めします。エンジニアさんによってはPro toolsを持ち込まれる方もいらっしゃいます。これは使用したいPlug-inを自分で購入している、直しが出た場合でもどのスタジオでも対応して作業することができるという利点があるからです。その他Pro Toolsのデメリットは・・・価値観にもよりますが、人によっては温かみがないとか言われる方もいらっしゃいます。まぁ後は。。。音楽は生ものですから。。。その一瞬、一瞬で出来るものが良しとされることもあると思います。

※5.1ch Mix は、これは上記の2chとはまた違い、5.1chサラウンドシステムのMix作業になります。5つのモニター(5.0)+ウーハー(0.1)の組み合わせになっています。

データ保存・保管

Mix Downした、Final MixをCD-Rに焼きます。Final Mix以外に、Voの音量を上げたもの(歌上げ)などを一緒に入れることもあります。マスタリングで聞き比べをする材料になります。

今までのデータをハードディスクドライブ(HDD)などに保存します。瞬時に確認ができて大容量のデータも保存できるところが良いところです。マスターのハードディスク以外に万が一(データが破損や機器の故障等)の事を考え、必ずバックアップも録ります。Ⅰセッションに2つのHDDを用意することになります。昨今は音がデータということもあり、エンジニアが管理せざるを得ない部分が大きくなりました。データということは簡単にCOPYも出来てしまいます。音源はエンジニアではなく、原盤製作者が管理するものです。COPYなどに対しての意識を高めてください。大切なデータになりますので運搬、保管には特に気を付け漏洩や悪用を防止しましょう。

レコーディングで使う用語
アウトプット
[output]
出力。その信号あるいは出力端子

アウトボード
[outboard]
エフェクター等のミキシング・コンソールの周辺機器

アタック・タイム
[attack time]
音の立ち上がりの時間

アフレコ
[after recording]
映像に合わせて、後からセリフや効果音、BGM等を録音すること

アンビエンス
[ambiance]
音響の分野では音場感、臨場感など音の広がりを意味する

イコライザー
[EQ]
周波数特性を自由に変化できる機器

イクイップペント
[equipment]
機器.装置の意味。アンプや楽器も含まれる

オケ録り
 
ボーカルやソロ以外の伴奏部だけを録音すること

オーディオ・トラック
&nbsp
シーケンサーで、MIDI以外にデジタル・オーディオの録音機能があるトラック

落とし
[track down][TD]
マルチトラックで録音したデータをミキシングしながら2トラックのテープを作ること

オーバー・ダビング
[overdubbing]
MTRなどで多重録音する際に、既に録音済みの演奏に合わせて別のトラックに新たに録音すること

オン・マイク
[on microphone]
音源の近くにマイクをセッティングすること

かえし(返し)
 
ステージ上の演奏者に演奏音や再生音を送り返すシステム

かぶり
 
収録をしたい音以外の音がマイクに混入すること

ガリ
 
スイッチやフェーダーが接触不良を起こして「ガリガリ」と雑音が生じること

間接音
[indirect sound]
音源から発したおとが、壁や床、天上などに反射して到達する音

完パケ
[complete package]
完全パッケージのこと。レコードの場合は、トラック・ダウンを終えたマスタリング直前の状態

サチュレーション
[saturation]
飽和状態のこと。歪んだ状態。俗に「サチる」

立ち上がり
[attack][rise]
音の出だしから、一定の音量になるまでの時間。音色に大きく影響する

ツィーター
[tweeter]
高音用のスピーカー

定位
[localization]
音を再生する際に、聞こえてくる方向

デッド・ポイント
[dead point]
感度が低く、受信が困難な場所

ピックアップ
[pickup]
レコードの音溝から振動を拾い上げる部分

トラック・シート
[track sheet]
MTRで多重録音する際、各トラック毎の録音内容を書き留めておくシート

ビット
[bit]
2進数1桁分の情報量。コンピューター扱うデータがの最小単位。

ファンタム
[phantom powering]
コンデンサー・マイク等の外部電源として、マイク・ケーブルを通じて供給する電力

ブース
[booth]
遮音された小さなスペース。

プラグ
[plug]
電気機器や楽器の接続に使われる、ケーブルがついている方のコネクター

プラグ・イン
[plug in]
アプリケーションに機能を追加する機能拡張ファイル

プリ・フェーダー
[pre-fader]
ミキサーで音量調整用フェーダーの手前の部分

プリプロ
[pre-production]
レコーディング作業の前準備。アレンジや機材の発注、歌入れなど。

マスター・テープ
[master tape]
編集・複製の元になる、録音・録画したままの状態のテープ。

I/Oポート
[input/output port]
Input/Outputの略入力と出力のこと

ロックアウト
[lock out]
一日使用する場合の時間。Lock out (12h)/¥000000というような感じ

※これはほんの一部に過ぎませんので、常にレコーディング時に飛び交う言葉を覚えておくと良いと思います。

マスタリングのイロハ

マスタリングとは?

Track Down(トラックダウン)完了後、プレス工場に納品するためのマスターを作る工程の事です。このマスタリングにおいて最も重要な作業が、複数ある楽曲を聞きやすくする為の音質調整です。

例えば、1枚のアルバムでMixしたエンジニアが各楽曲により複数居る場合、音質はもちろん、全体的な音量からボーカルの大きさまで様々違ったMixが生まれます。それらの曲をそのまま並べただけでは、音量差があったり、歌詞やボーカルの聞き取りづらさ等により、聞いていると疲れてしまうアルバムになってしまいます。そうならないために、音量差を揃え、ボーカルの大きさなどもある程度一定になる様に、Mix Downされた楽曲を調整します。例えば、歌い手の声や楽器の音色に艶を出したり、音に厚みを出したりと、必要に応じて様々な音の補正・調整を行います。
これはマスタリングエンジニアにより、違いや特色が色濃く出ます。

また、素材の音源にノイズが多く聴きづらい場合には、ノイズ除去作業も行います。そして、調整された楽曲を曲順に並べ、曲間を作り、工場へ納品する為のプレス用マスターを作成します。このマスターを作る際に、商品流通のためのサブコードと言われる情報を入力します。
サブコードとは、楽曲管理番号であるISRC(アイエスアールシー)や、商品バーコードであるPOS(ポス)コードと呼ばれる情報です。音質が劣化しない様に心掛けながら丁寧に仕上げます。

ここまでがマスタリングスタジオで行われる一般的な作業です。作業の進行は、エンジニアによって違いはあります。また最近では、配信用やTVタイアップ用のみでのマスタリング等もあります。

プレス工場へ納品する前の、最後の大事な作業です。
プレス用マスターは、プレス工場にてレーザーカッティング・プレス作業を経てリスナーの手元へ音楽CDとして届けられます。

それでは、『今だから聞ける!!マスタリングのイロハ』と題して、マスタリングスタジオのスケジュールを押さえる所から、マスタリング作業、マスター納品までの流れを説明します。

作業当日までの準備

作業当日までに以下の作業、確認が必要になります。

1. マスタリング スタジオのスケジュールを押さえる
2. ISRC(アイエスアールシー)、POS(ポス) を取得し、レーベルコピーを作成する
3. マスタリング スタジオに納品するTD(ティーディー)マスタ-の形態・日付などを確認・連絡する
4. 製品用マスターの納品形態、また、配信用やTV用など別途用意する必要がある場合は、それらの納品形態を確認・連絡する

1~4などは、メーカーやディレクター個人などにより、様々な対応があります。
プロモーションには出したいが、商品の発売日はまだ先となっていて、レーベルコピーが用意出来なかった…など、という事もあると思います。
しかし、マスタリング日前までには準備出来ると、当日の作業がスムーズになり、時間の短縮に繋がります。
そして、Track Downも順調に進み、制作進行が見えてきたらマスタリングのスケジュールを決定という形で押さえます。

次から、各項目を詳しく説明します。

1. マスタリング スタジオのスケジュールを押さえる

マスタリングは誰に依頼するのか?音の方向性やMix(ミックス)エンジニアの希望もある事と思います。それらを確認し、マスタリングスタジオやエンジニアの選定をします。

仮予約は、発売日の約2ヶ月前に予約することが望ましいと考えます。ただ昨今の制作進行から2ヶ月前というのはなかなか難しいかと思いますが、プロモーション等のことを考えると、なるべく早い仮押さえが必要かと思います。仮押さえの時に、現時点で分かっている事を伝えます。

・プログラム名 : アーティスト。
・構成 : シングル or アルバム or 配信用 or 白盤 or LIVE DVDなど。
・曲数 : ボーカル入り・インスト(☆1)、それぞれ何曲か、収録曲数。
・時間 : 希望のスタート時間。

☆1 インストとは・・・
インストとはインストゥルメンタルの略で歌詞や歌唱のない、演奏だけの事。

その他
Live DVD等の収録時間が長い作業や、マスターの納期が迫っているもの(例えば当日の夕方迄等)は、マスター作成の時間も考え、余裕をもって押さえる事が望ましいです。

2. ISRC(アイエスアールシー)、POS(ポス) を取得し、レーベルコピーの作成

マスタリングでは、プレス用マスターを作る際に、商品流通のためのサブコードと言われる情報を入力します。このサブコードには、ISRC(アイエスアールシー)とPOS(ポス)コードの2種類があります。

この2つのコードについては次の項目の【ISRC、POSとは?】にて詳しく説明してあります。必ず理解し、間違った使い方をしない様にしましょう。

この2つのコードが無ければマスターを仕上げる事が出来ません。
弊社ではこのコード不備の為、マスタリング作業が中断してしまう事が多々あります。
必ず事前に準備し、問題ないかを確認しておきましょう!

レーベルコピーとは、発売の決まった製品の情報が記入されている書式です。編成表とも呼ばれます。弊社には、レーベルコピーの定められたフォーマットはありません。手書きであったり、WordやExcelで作成された文書であったり、様々です。今後、フォーマットを定める必要性があります。正式なレーベルコピーが必要ではありますが、マスタリングで特に必要な情報は、正式なアーティスト・タイトル表記と、ISRC、POS、後はプレス用マスターに表記する品番(製品番号、カタログナンバー)です。

品番とは、各メーカーにおける商品の管理番号です。同一タイトルでも、収録曲数や形態(CDにDVD付きの商品や、CDのみの商品…など)が違う場合は各1つずつ振り当てられます。この品番は、プレス用マスターにデータ入力する事はありませんが、商品管理をする上で重要な番号です。また、ISRCとPOSに関しては、プレス工場で入力可能な場合もあります。しかし、プレス工場に確認が必要であり、音質維持のためマスタリングスタジオで入力し、プレス工場に納品する方が望ましいと思われます。

※DVD、Blu-rayの場合はISRCはマスタリングスタジオでは入力せず、オーサリング(☆2)で入力します。
※メーカーによっては外部で作成されたマスターでも、自社スタジオにてコード類を入力をして納品し、管理しているところもあります。(ソニー、ビクターなど)

☆2オーサリングとは
文字や画像、音声、動画といったデータを編集して一本のソフトウェアを作ること。プログラミングを伴う場合もありますが、一般的には複数のマルチメディア要素を編集・統合して一つのタイトルとしてまとめることをオーサリングと呼びます。チャプターも作成します。

★ このレーベルコピーを前日までにメールで (Excel、Word、PDFなど) スタジオに送ります!!
製品になるマスターに重要な情報(コード)を入力するので間違いがあってはいけません。
データで頂けると、それをコピー&ペーストで作業を行うことが出来る為、手入力より正確さが増し確実だからです。
また、前日までに頂くことにより、あらかじめ必要な情報が確認でき、もし不備のある場合はこちらから作業日迄にお伝えし、修正できるという利点もあります。
すべては当日の作業がスムーズに進む事と、製品に万全を期す為です。

ISRC、POSとは?

ISRC(アイエスアールシー)
曲単位の楽曲管理番号です。12桁の英数字からなります。日本レコード協会で申請、取得します。
ISRC

レコーディング(オーディオレコーディング及び音楽ビデオレコーディング)の識別に利用される唯一の国際標準コードです。ここで言う「レコーディング」とは「収録及び編集の作業によって得られた成果」をさし、バージョン違い(リミックス)やタイム違いをはじめとする「視聴覚的に識別できるもの」は全て異なるレコーディングとして扱われます。 1つのレコーディングは1つのISRCによって識別されます。異なる複数のレコーディングに同一のISRCを付けたり、単一のレコーディングに複数のISRCを付けたりすることはできません。また、一度付番したISRCを変更することはできません。

ISRCの基本原則
1. すべてのレコーディングは、固有で一義的なISRCを持たなければならない。
2. 登録者は、国内ISRC登録管理機関によって付与された登録者コードでのみISRCを付与することができる。
3. 新たに製作されたレコーディング及び変更が加えられたレコーディングのすべてに対して、常に新しいISRCを割り当てなければならない。
4. 元の登録者が、そのレコーディングを発行したあとに、変更を加えないで譲渡したときは、同じISRCを用いなければならない。
5. 既存のレコーディングに割り当てられたISRCの再使用は認められない。
6. ISRCはレコーディングを識別するためのコードであり、そのものがレコーディングの権利者を示すものではない。
7. ISRCはオーディオ又はオーディオビジュアルの媒体の分類・番号付けなどに使用してはならない。
8. ISRCの年次コードは、著作隣接権の保護開始年を意味するものではない。
(日本レコード協会ホームページより引用。)

POS(ポスコード)
POSコードとは、商品管理や受注システム、たな卸し、在庫管理システムなどを目的とした、流通情報システムの基盤となる、いわゆるバーコードの事です。13桁の数字からなります。
同じ意味ですが、各国での呼び方は様々あります。
日本では、JANコード(Japanese Article Number)と呼びます。
ヨーロッパでは、EANコード(European Article Number)と呼びます。
アメリカ、カナダなどでは、UPC(Universal Product Code)と呼びます。
これらを総称してPOSコードと呼び、互換性のある国際的な共通商品コードです。
弊社の2つのコードの取得方法
POS・・・編成会議後に品番が決定されると、PIPSに掲載されます。
ISRC・・・AMI商品部編成課に楽曲申請を行うと配布されます。

納品する素材

3. マスタリングスタジオに納品する素材(TDマスター ☆3)の形態・日にちなどを確認・連絡する

☆3 TD(ティーディー)マスター・・・
TDとはトラックダウンの略で、ミックスと言う事もある。
それゆえミックスマスター、ミックスダウンと言う場合もある。
主な素材は…
・DATA(データ)
・DAT(ダット)
・アナログテープ
以上の3種類が一般的な素材です。

DATA(データ)とは、wav(ワブ)やaiff(エーアイエフエフ)などのパソコンで扱うオーディオファイルの事です。

wav:非圧縮音楽ファイル(限りなく原音に近いファイル)
aiff:通常は非圧縮、圧縮データ用のフォーマットも存在する。その場合のファイル拡張子は.aifcとなる。
mp3:世界的に最も普及している圧縮された音楽ファイル(同じmp3でも様々な形式があるため音質にばらつきがある)

DATA(データ)をどの様にして納品して頂くかは、特に指定は設けていません。HDD(ハードディスク)での納品が多く、DVDなどのメディアに焼いたDATAであったり、USB(ユーエスビー)メモリー、ファイル便で送られてくる事もあります。
また、音質や細かい調整のため、コンピューターごと持ちこんでマスタリングスタジオにセッティングし、Mix(ミックス)で行われた環境を再現して作業をする事もあります。

■DAT
DAT(ダット)とはデジタルテープの事で、最近はあまり見掛けなくなってきています。カセットテープより少しサイズの小さいテープ、という形状です。
DATは磁気のテープです。スピーカーなどの同じ磁気を持つ物のそばには、置かない様に気をつけなくてはいけません。
DATは見かけなくなってはいますが、Mix エンジニアの中には、DATの音質、質感が好きで使用している方も居ます。

■アナログテープ
アナログテープには種類とサイズが色々あります。
Mix(ミックス)で使われるのは、主に1/2 (ハーフ)と1/4 (シブイチ)と言われるサイズです。(上写真は1/2・ハーフです)
最近では、レコーディング環境のデジタル化が進み、アナログテープを製造しているメーカーが撤退してしまったり、良い状態のテープが無かったりと、使用する人は激減しています。
それでも、DAT(ダット)と同じ様に好んで使用するMix(ミックス) エンジニアは居ます。
デジタル化が進む前は1/2(ハーフ)が主流であり、マスタリングにおいて古い音源が収録されるベストアルバムの様なアイテムは注意が必要です。
アナログテープは劣化します。そのため、古いテープは音質が悪くなってしまったり、酷い状態だと磁気が剥がれて、正常に再生する事もままならない事もあります。
この場合、専用のオーブンでテープを焼く事により、再生できる様になる場合もあります。
しかし、そのテープが正常に再生されるかどうかは、見た目の変化では判断出来ず、一度再生してみないとわかりません。
従って、余裕を持って準備をし、一度スタジオで再生出来るかどうか、テープの状態を確認する事が重要なので早めにスタジオに相談します。
その他には、古い音源もアーカイブ課でDATA(データ)化されている場合があります。又はDAT(ダット)などのSub Master(サブマスター)の有無、最悪の場合も考えて製品CDも準備頂けたらベストです。
そして、アナログテープを再生するためには、Mix Down(ミックスダウン)時に録音されたリファレンストーンが必要です。
リファレンストーンとは、アナログテープレコーダーを調整するための信号の事です。
録音された環境と再生する環境を同じにする必要があるため、Mix Down(ミックスダウン)時に基準となる信号を録音します。その信号を使ってアナログテープレコーダーの調整を行います。
ほとんどの場合、テープ1本に対してリファレンストーンが録音されていますが、リファレンストーンの入っていないテープもあります。
例えば…
・ Final Mix(ファイナル・ミックス)とVocal Up Mix(ボーカル・アップ・ミックス)が1本のテープに収まりきらずに2本に別れた場合。
・ アルバムなど、複数曲のMix Down(ミックスダウン)を行った場合。
これらの場合は、アナログテープレコーダーの調整に変わりは無いので、ひとつのリファレンストーンを流用して録音している、という事になります。
リファレンストーンの所在などのコメントが必ずテープに記載されている事と思いますので、ベストアルバムの作業では特に、使用したい楽曲に対するリファレンストーンを確認の上、用意する。

※form THE MASTERではroom Rとroom S6は1/2と1/4の再生ヘッドが共有になるので事前確認が必要です。

■LIVE DVD・Blu-ray等映像素材
LIVE DVDの場合、room S6は映像のプレビューができます、映像の種類と作業されるMAスタジオもお伝えください。(room S6以外は映像プレビューは出来ません)
画の素材は、Pro tools(プロツールス)で再生するため、Quick Time(クイックタイム)、MXF(エムエックスエフ)の映像データが最適です。
Quick Time(クイックタイム)、MXF(エムエックスエフ)データでないと、変換に1日を要します。この場合、出来る限り前日の午前中あたりに持込むようにする。

また、データでは無くテープ素材のデジベ(デジタルベータカム)やHDCAM(エイチディーカム)の場合はform THE MASTERには再生デッキが常設ではない為、手配が必要となるので、こちらも早めに伝える。

Blu-rayの場合96 or 48kHz / 24 or 16bit納品ですが、96kHzで納品の場合、素材(TD マスター)のサンプリングレートも96kHzで持ち込む必要があります。つまり、レコーディングの段階でBlu-rayの96kHz納品を想定したものであれば、96kHzでレコーディングする必要があります。
もし、レコーディング時に48kHzでレコーディングをした物を、Blu-ray用で 96kHzのマスターを作成すると場合、アップコンバート(48kHz→96kHzに変換)をする事になり、あまり意味がありません。

4. 製品用マスターの納品形態、また、配信用やTV用など別途用意する必要がある場合は、それらの納品形態を確認・連絡する。

製品用マスターの納品形態

■DDP (Disc Description Protocol)
現在主流となっているのが、DDP(ディーディーピー)と言うファイルフォーマットです。
光ディスクを複製・製造するために必要なマスターテータ用のファイルフォーマットになります。
多くはこのDDP(ディーディーピー)をDVD-Rに焼いて納品しています。

※ ちなみに、以前はU-matic(ユーマチック)と言う、テープが主流でした。(形・大きさからお弁当箱とも呼ばれたりします) ↓これです。

■CD-DA(Compact Disc Digital Audio)
一般的な音楽CDがこれにあたり、世の中で普通に“CD”といえば、ほとんどの場合、このCD-DA(シーディーディーエー)を指します。オーディオCDと呼んだり、CDプレーヤーで再生出来るCD-Rの事です。
サンプリング周波数は44.1kHz / 16bitです。最大99トラック(曲)まで記録することができます。

その他に、配信用・TV用などの必要やSub Master(サブマスター)、「白盤」と呼ばれるプロモーション用等もある事と思います。
これらの納品形態は、用途や納品先によりますので、必ず納品先にご確認ください。

納品形態の種類としてはオーディオ CDやDATAが多く、その中でもDATA納品の場合は、指定のサンプリングレートもお伝えください。
弊社の配信用の場合、DDPマスターからの流用、または44.1kHz / 16bit (CDと同じ)のDATA納品となっています。
TV用やPV用等の納品は48kHz / 24bitや44.1kHz / 16bitだったり、オーディオCD、など様々あります。
必ず、自己判断は避けて、ご確認ください!!

※LIVE DVDマスタリングの場合はMAのスケジュールの確認も必要です。
マスタリングとよく間違われるのがMA(エムエー)です。後に記述しますが、MAは映像用の音声編集作業を指すものです。くれぐれも“マ”と呼ばないように。。。

 

・MA(エムエー)とは…
Multi Audio(マルチオーディオ)と言い、日本のみで通用する略語で、MA処理またはMA編集と呼び、マルチ・トラック・レコ-ディングにより、映像用の音声編集作業を行うことを言います。アメリカではビデオ・スィ-トニング(Video Sweetning)と呼ばれています。映像の尺や音の編集でナレーションやBGM、歓声等を足したりし、映像と音のタイミングを合わせる作業を行います。

映像が絡む、基本的な作業の流れは以下の通りです。

LIVE DVD
Mix Down → MA → マスタリング → オーサリング(☆3)
又は、Mix Down → マスタリング → MA → オーサリング
TV用・PV用
Mix Down → マスタリング → MA

という流れが一般的です。
LIVE DVDについては、作業の制作進行により、MAとマスタリングが逆転する事もあります。
このようにLIVE DVDマスタリングに関してはMAのスケジュールにより、マスタリングのスケジュールが見えてくる部分もあります。

では実際にマスタリングの作業に入っていきます。

マスタリング作業の流れ

一般的なマスタリング作業の流れは、以下の順に進められます。

Ⅰ TDマスター(ティーディーマスター)の再生準備
Ⅱ 音作り
Ⅲ 確認(チェック)
Ⅳ 録り込み
Ⅴ 曲間決め、PQ(ピーキュー)打ち
Ⅵ 通し聞き ※希望の方のみ
Ⅶ マスター・リファレンスCD-R(コピーCD)の作成
Ⅷ 検聴

それでは各項目を細かく説明します。

Ⅰ TDマスターの再生準備
まず持ち込まれた素材を準備します。
マスタリング済みの素材や、製品CDをマスターとして使用する場合、エンジニアによってリッピングの場合と、リアルタイムで録り込む場合などと違いがあります。
この時点で事前に頂いているレーベルコピーを確認しながら曲順通りに並べたり、素材が間違っていないかをチェックします。

※これらの作業は前日までに素材を搬入されている場合、スタートまでに準備が出来ます。

Ⅱ 音作り
再生する準備が整ったら、TDマスターを再生しながらエンジニア が音作りをしていきます。
アナログやデジタルのEQ(イーキュー)やコンプを使い音圧や広がり、奥行きを出したり、迫力がありバランスの良いサウンドにしていきます。基本的にその楽曲にあったマスタリングを行いますので、必ずしもEQ(イーキュー)をかけたりするとは限りません。もともといいものは何もしなくてもいいからです。従って、ミックスの仕上がりや楽曲により、1時間かかるものもあれば15分ほどで終わってしまう事もあります。複数の曲を一枚の作品として聞きやすく統一するために、レベル差などがないように音量のバランス、各曲の音質を調整して、曲により毎回違った処理を施す事になります。

Ⅲ 確認(チェック)
音作りが出来たものをアーティストやディレクター、レコーディングエンジニアの方々に確認して頂きます。こちらも作業内容(シングル・アルバム・DVD)やスケジュールの状況、エンジニアによって多少違いはありますが、基本的には1曲ずつチェックになります。この時に要望があれば、その場で修正します。

Ⅳ 録り込み
確認をして頂き、OKが出たらマスタリングソフトに録り込みます。その際に、エンジニアがノイズやエラーが無いか等のチェックを行います。ノイズがあった場合、それはマスタリングをした事によるノイズなのか、もともとTDマスターにあったノイズなのかを聞き比べてチェックをします。マスタリングで出来てしまったノイズの場合は、修正します。OKであれば曲頭と終わりのフェード処理をします。

※曲数分Ⅱ→Ⅲ→Ⅳを繰り返します。

Ⅴ 曲間決め、PQ(ピーキュー)打ち
曲間は文字通り、曲と曲の間隔を決めます。曲によっては、全く空けない物 (曲間0秒)、前の曲が終わる前から次の曲が始まる物 (クロスフェード)、ボーナストラックのようにかなり空ける物など、こちらも内容によって様々です。1曲目終わり~2曲目始めという感じで実際に聞きながら順に決めていきます。PQ(ピーキュー)打ちとは、簡単に言えば曲の始まりと終わりのポイントを決める作業です。主にNon-stop(ノンストップ)など曲が繋がっている場合のトラックのポイントを決める作業の事を、PQ打ちと呼びます。この作業は完全お任せでない限り、極力立ち会うようにする。

Ⅵ 通し聞き ※希望の方のみ
これは1曲目~最後まで音、曲間、全体の確認を含め通して聞いて頂きます。やはり通して聞くとなると実時間(アルバムで長いものであれば70分位)がかかり、その分、料金が増してしまいます。

Ⅶ マスター・リファレンスCD-R(COPY CD)の作成
ISRCとPOSコードを入力し、プレス工場納品用製品マスターを仕上げます。その他に必要な配信用やTV用、PV用、COPY CD(コピーシーディー)も作成していきます。COPY CDはまずMOTHER COPY(マザーコピー)を作成し、そのMOTHER COPYをご希望枚数、複製致します。製品マスターのDVD-Rについてはメディア自体にエラーが無いか、専用のチェッカーにかけ、チェックを行います。

Ⅷ 検聴
メディアのエラーが無ければ、最後にエンジニアが頭から最後まで通して検聴します。検聴しながらエラーとなるノイズが無いかどうかを確認し、また、ノイズがある部分を細かく記していきます。これは聴感上、問題のないノイズですが、プレス工場でも行われる検聴を円滑に進めるためです。このノイズを記したテクニカルシートを製品マスターに同封します。この検聴で問題なければこれでマスターは出来上がりです。

また、SUB MASTER(サブマスター)等『MASTER』とつくものは、全て検聴を行う様にしています。その為、製品マスター以外にSUB MASTER等が必要な場合はその分検聴の時間を要します。時間と料金が発生してしまうため、Sub Masterと言っても保管用などの目的で作成したい場合などは、その旨を伝える。検聴は省き、臨機応変に対応できます。

以上でマスタリングの作業は終わり、DVDに焼かれたDDPファイルをAMI商品管理へ納品します。(詳しくはgaiaのマスタリングマスター運用フローを参照ください)

大手レコードメーカーにマスタリングスタジオがある場合、外部スタジオで作業を行ったものも、自社のマスタリングスタジオで再度、検聴を行います。ディレクターが立会い、チェックシートを元に、ノイズが乗っていないか、このノイズは問題ないのか、曲に間違いがないか等を、マスタリングエンジニアとともに確認します。弊社は上記のような、自社マスタリングスタジオで、再度検聴を行うシステムがありません。よってディレクターは必ずマスタリングに立ち会うべきです。商品事故などのリスクを回避すること、ディレクター自身が責任を負うという責務があるからです。また、出来上がった製品マスターを『バイク便で送る』や、『デスクの上に置いておいてください』はあまりにもマスターを安易に考えすぎています。HDD同様、その目の前のDVDやCDは数百円から数万円の物かもしれません。ですがその中には、皆さんが聞いて欲しいと一生懸命作った音源のマスターがそこにあるのです。制作費に大きい、小さいがありますが、そこには何ものにも変えがたい、“生モノ”が存在するのです。

マスタリングQ&A
Q
MOTHER COPYを配信用やTV用等のマスターとして使用出来ますか?

A
出来ません。 MOTHER COPYはマスタークオリティーのCD-Rではありません。 あくまでも試聴用のCD-Rの大本のコピーであり、検聴は行っておりません。 配信やTV用等のマスターとしての使用はご遠慮願います。

Q
14曲入りのアルバムの作業時間と金額を教えてください。

A
まず、料金は各部屋、エンジニアにより違います。 時間は楽曲やMix等の仕上がりにもより2、30分で終わる曲もありますが、大体1曲1時間と考えて頂けたらと思います。マスタリング終了後、曲間決め、検聴、マスター作成で更に1、2時間かかるのでトータル16時間とし、全てグループ内料金で計算した場合以下のようになります。

 

小柳令奈(room R)の場合
→15,000円(ルーム料)+9.000(エンジニア料)=24,000円×16時間=384,000円
宮本茂男(room MT)の場合
→18,000円(ルーム料)+10,000(エンジニア料)=28,000円×16時間=448,000円
辻元宏(room S6)の場合
2ch→15,000円(ルーム料)+8,000(エンジニア料)=23,000円×16時間=368,000円
S6でDVD等5.1chの場合はルーム料金は17,000円です。
 
こちらはあくまでおおよその目安です。最近のアルバム1枚の相場は250,000~350,000位が多いですが、曲数や形態数により前後はあります。

Q
お任せマスタリングはできますか?

A
完全お任せという形は基本的には出来ません。 素材を頂き、お任せで音作りは出来ますが、曲間 ( 特にノンストップはPQポイントが分かりにくい為 ) や曲順、全て含めて間違いがないか、このままマスターを作成して問題がないか、を立ち会って確認して頂く必要があります。

Q
4曲入りのシングルCDの予算はどれくらいですか?

A
Q[ 14曲入りのアルバムの作業時間と金額を教えてください。]でお答えした通り金額は違います。 4曲入りのシングルと言っても全て歌入りか歌入り2曲+カラオケ2曲の合計4曲かによっても違いは出てきます。4曲全て歌入りの場合は先ほど同様1曲1時間計算ですが、歌入り2曲+カラオケ2曲の場合、カラオケは歌入りと同じ音作りでそのまま取り込む為、実際の作業時間は約半分の2時間位となります。 因みに最近のシングル1枚の相場は100,000円~200,000円ですが、こちらも曲数、形態数により前後はあります。

Q
マスタリングの作業はMixの作業で行いました、DDP Fileの作成だけお願いしたいです。それは可能ですか?またおいくらになりますか?

A
可能です。 こちらも収録時間等にもよりますが曲間と検聴、マスター作成でアルバムであれば2、3時間の作業だと思います。ルーム+エンジニア+メディア代 ( DDP マスターは1本2,000円) です。

Q
コンピレーションのCDを作ることになりました。何を用意すれば良いですか?

A
まず素材が何になるのか、という確認が必要です。 DDP ファイル、WAVデータ、オーディオCD、製品CD等、コンピレーションは様々な音源がある事と思います。DDPファイルや製品CD以外の素材の場合、マスタリング済みなのかTD マスターなのか、という確認が重要になってきます。他社原盤の場合も必ずご確認ください。 それによりこちらでマスタリングをするのか、並べ替えてレベルを揃え、マスターを作成するだけなのか等、作業時間にも影響してきます。

Q
ロック系のマスタリングをお願いしたいのですが、form THE MASTERだと どなたがお勧めですか?

A
宮本、小柳です。 宮本は歌モノでバンド等も多いですが幅広く対応しております。 小柳はダンス、ハウス系を得意としておりますが、一部ロックバンドからも根強い信頼を頂いています。
辻はクラブ系(ブラックミュージック系)等も多いですが、ビジュアル系バンド、J-POP等ジャル問わず対応しております。

Q
作業当日までにPOSコードやISRCを取得できませんでした、それでもマスタリングの作業は可能ですか?

A
可能です。当日は曲間を決める所迄の作業でマスターは作成せずに、後日コードが取得出来次第、マスターを作成する形になります。

Q
曲間決めが終わってから、マスター作成完了までにかかる時間はどれくらいですか?

A
最終的にお渡し出来るまでは曲数(シングル・アルバム)や収録時間にもよりますが検聴で実時間かかる為、60分位のアルバムであれば、書き出しやエラーチェックで約0.5H。その後検聴で約1Hの合計約1.5H位かかります。。

Q
マスターは後日引き取りとして、COPY CDのみを持ち帰りたいのですが可能ですか?

A
可能です。 事前にその旨を伝えて頂ければそのように対応させて頂きます。 その際マスターの引取り日時を必ずお伝え下さい。 その日までに作成させて頂きます。

Q
直しの作業が発生しました。TD マスターは再度持ち込んだ方が良いですか?

A
持ち込み願います。
基本的に作業の終了した素材 (TD マスター) はこちらでは保管しておりません。

Q
以前シングルでお世話になりましたが、非常に評判でアルバムもお世話になろうと思います。その場合以前やって頂いたシングル曲の作業も行いますか?その場合はTD マスターも持ち込まないといけませんか?

A
持ち込み願います。 アルバムとして並んだ時に、統一感やアルバムのコンセプトなどから改めて音作りを行う事が多くあります。
もちろん、シングルの時の音源をそのまま並べる事が出来る場合もあります。